校長先生の挑戦 番外編(職員研修)
今日は、先生方向けの「校長先生の挑戦」です。写真は平成4年に開催された宮崎県造形教育研究大会開催要項。当時、新採5年目、研究部長を担当していた校長先生は、その研究テーマ設定の理由の中で「物の豊かさや情報の氾濫が、子どもたちの感性を育んできたものを色あせさせ、学校で学んでいる事と日常生活とを結びつける事が困難になってきている」と述べています。
その4年前、真面目を絵に描いたような生徒会長から新米美術教諭に投げかけられた「自分にとって美術は楽しいものではない。なのに何故頑張らんといかんと?」という疑問がその背景にあります。写真のイチゴ(作り物)は、その疑問への当時精一杯の答えでした。「イチゴを食べる時、味だけでなく、その形や色、香りも楽しめれば幸せ3倍増。そんな感性を育てるのが美術」
写真右上は、大会の年に担任した2年生の文化祭展示準備の様子です。初めは乗り気でなかった生徒達も、作業が進むにつれて「何だか楽しい」「何か大切なものが生まれそう」と気持ちが変化し、勢い合唱の部でも優勝してしまいました。重要なのは心が動くこと。それ以来、「豊かに感じ取りしなやかに動く心」、すなわち、「感性」を育むことを常に目標としてきました。
その「感性」を、校長として学校経営ビジョンに落とし込んだものが上左図です。通常なら、上右図のように、子どもたちの日々の挑戦は「何か(例えば3つの学力)をできるようにさせる場」と捉えるのが一般的だと思います。しかし、その挑戦を「何かをできるようにさせる場」としては勿論、「感性を磨く場」としても機能させるというのがこのビジョンの核となっています。
文科省は、知識・技能をボディ、思考力・判断力・表現力をエンジン、学びに向かう力・人間性をガソリンと説明しています。どこからかガソリンが湧き出すとしたら、それは子どもたちの心からに他なりません。「楽しいもの」「大切なもの」として子どもたちの感性のフィルターを通り抜け、心に落とし込まれ蓄積されたものが化学変化し、そのガソリンとなると考えています。
子どもたちの心は授業だけで出来ている訳ではありません。 心揺さぶる行事や部活動は働き方改革で二の次、心蝕む深刻な問題は棚上げという状況下、授業改善のみを叫んでも成果はあがりません。心の油田の存在を信じ、そこに豊かなものを注ぎ続け、時にそれをつつく。例えば「運動会頑張ろう」と声をかける時、子どもたちは何のために頑張るのか納得できているでしょうか?
どんな言葉をかけるかも、結局は、かける側の感性次第です。ただ「頑張れ」というのは言わずもがな、「自分のため」「将来のため」のようなオールマイティで既視感たっぷりの言葉も子どもたちの心に刺さることはありません。当然、何かが湧いてくることも期待できないでしょう。昨年、「頑張るのは感動するため・感動するのは心に残すため・心に残すのは未来に繋ぐため」という言葉で子どもたちの心に開けた小さな穴を、今年、20枚の黄色いサージ(卒業生からの寄贈)が大きく広げてくれました。33年前に造形研県大会要項に記した「学校で学んでいる事と日常生活とを結びつける」ための試み。それが、毎月、あの手この手で展開した「校長先生の挑戦」でした。期せずして、それを強力に後押しくださったお二人の卒業生に改めて感謝申し上げます。